古くから、
人びとは自分たちのいるところとは
異なる世界、
すなわち「異界」を意識してきた。
人知の及ばない現象は、
異界の住人が引き起こすものであると
畏怖し、
我が身に降りかかる災いは、
他界に属する神や仏への
ひたむきな祈りによって退けようとした。
新たに生まれる命を喜び、
成長を祝い、
また死者を手厚く弔う際にも、
さまざまな儀礼を行ってきた。
天変地異や災厄の原因を理解し、
生の苦しみや死の恐怖を克服するために
人びとはこの世ならざる世界を
想像してきたのであり、
異界とは私たちの生活を基層で
支える概念ともいえるものである。


本展では当館の館蔵品を中心に、
民間信仰にかかわる器物や
祈願品などの民俗資料をはじめ、
祭祀具や副葬品などの考古資料、
他界観や神仏、妖怪などをあらわした
絵画資料や歴史資料など、
異界にまつわる資料を紹介する。
さまざまな状況であらわれ出る異界を、
私たちはどのように捉え、
交渉し、また対応してきたのか。
このことについて、
さまざまな視点を交えて
考える契機とする。

